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 音速と音高

  ヘリウムガスによるドナルドダック効果(音高が高くなる効果)の説明に、ヘリウム中の音速が速いことが上げられています。
  しかし、わたしには理解できない。

  以下のように考えて、結論はこうなりました。
  「大気中」と「ヘリウム混合空気」では、同じ周波数の波長が異なり、共鳴の起き方が変わります。

  ヘリウムを使わなくても温度や湿度で音速は変化しています。
  音速は、1秒間に進む距離(m/秒)なので、これを周波数(回/秒)で割った値が波長(m)になります。
  表現を変えると、音が1秒間進む距離(m)は、波長に周波数を乗じた値だと言うことです。
  音速が早くなることは、波長が長くなるか、周波数が高くなることです。
  そして、実用上、周波数は変わらないことにしているのだと思います。
  楽器やCDの再生音は、気温や湿度によらず、概ね同じように聞こえると言うことです。

  同じ周波数で、波長が異なると言うことの影響は以下のようになります。

  1. 音叉やトライアングルなど、それ自体の振動は同じように伝わり周波数に変化はない。
  2. 声は、声帯の振動を共鳴させて作るので、波長で決まる共鳴周波数が変わる。
  3. 音を収録するマイクなども共鳴状態の変化の影響を受ける。
  4. 聞き手もその中にいる場合は、耳の共鳴状態が変わるので聞こえ方が変わる。
  5. 同じ室内なら環境の共鳴状態が変わって背景音が変わる。

ヘリウムと音速

  「音の伝播」のSoundSpeed2()で、大気中の音速を計算してみます。
  この関数は、大気の密度から音速を計算しています。
  これを修正して、He 混合大気の計算をする SoundSpeedHe() を作ります。  

  1. # 直接湿り空気の密度を計算する ヘリウム混合 (pHe Pa)
  2. # 気温がK(K)で、気圧がP(Pa)のとき、水蒸気の部圧が
  3. # Pw(Pa)なら密度(g/立方メートル)
  4. DensityOfHeAir <- function(K,P,Pw,pHe)
  5. {
  6.   x <- (DryAirMolarMass * (P-Pw-pHe) 
  7.         + WaterMolarMass * Pw
  8.         + HeMolarMass * pHe)
  9.   273.15 * x / (2271.095*K)
  10. }
  11. #--------------------------------------------------------
  12. # 音速の計算 密度から ヘリウム混合(pHe Pa)
  13. SoundSpeedHe <- function(K,P,hy,pHe)
  14. {
  15.   Pw <- VapourTension(K,hy) # 水蒸気圧
  16.   sqrt( DryAirHeatCapacityRatio * P 
  17.         / (DensityOfHeAir(K,P,Pw,pHe) / 1000) )
  18. }

  条件は 1atm、37℃、湿度100% とします。

  1. > # 37,1atm,湿度100%の音速
  2. > SoundSpeed2(37+273.15,101325,100)
  3. [1] 357.5012
  4. > # 同じ条件で、ヘリウムの分圧を30%に
  5. > SoundSpeedHe(37+273.15,101325,100,101325*0.3)
  6. [1] 416.8718
  7. > # この時の酸素濃度
  8. > 23.01 * (101325 - VapourTension(37+273.15,100)- 101325*0.3) / 101325
  9. [1] 14.72429

  音速は、空気で 357.5m/s、ヘリウムを30%(体積比)混合して 416.9m/s と計算されます。
  計算の仮定は、ヘリウム混合しても水蒸気の分圧が変わらないことです。(体積比で、水蒸気6%、ヘリウム30%となって、乾燥空気分は64%。酸素濃度は23.01%から14.7%に(乾燥空気に対する重量比))

音速と音高

  疎密の繰り返しでエネルギーが伝わることを考えると、振動しているものと同じ周波数で伝わる以外には考えられません。
  音速で音高が変わることはなさそうで、ドナルドダック効果を説明するには振動源の周波数が変わったと考えることになります。
  トライアングルとか、打楽器などは、ヘリウム中でも同じに聞こえるはずで、共鳴によって振動を作っている場合にドナルドダック効果が生じると考えます。

  波長(m)に、周波数(Hz)を掛ければ1秒間に進む距離になります。
  トライアングルの場合は、トライアングルの物理的性質には変わりはなく、空気中でもヘリウム混合でも同じ振動をするはずで、ヘリウム中では波長が伸びていることになります。
  声の場合は、声帯と共鳴管で振動が作られます。声帯は同じように振動しても、ヘリウム混合では波長が延び、波長で決まる共鳴の条件が変わることが推測できます。

  ヘリウム混合空気中では、音速の早くなった分、波長が長くなります。周波数はかわりません。
  共鳴は、管の長さと、波長の関係で決まります。管の長さが同じなら、ヘリウム混合空気中では、より高い周波数の音が共鳴することになります。

  温度によって音速が変わりますが、(周波数で音速を割った)波長が変わると表現しても同じだと言うことです。

音高への影響

  前述の例で、影響を考えてみます。
  440Hzの音を例に取ると、波長は、空気中では 357.5 / 440 = 0.8125 m となります。ヘリウム混合では、416.9 / 440 = 0.9475 m となります。
  ヘリウムを吸引して、440Hzを出す動作をすると、ヘリウム混合で波長が0.8125 m となる 440 x (0.9475 / 0.8125) = 513.1 Hz が鳴ると言うことだと思います。
  440Hzは、時報に使われる ラ の音で、513.1Hzは、ド より若干低い周波数です。

  ヘリウムの1モルの質量は 4 g/molで、空気は29g/mol ほどです。したがって、もしヘリウムだけで計算すると音速は、1000m/sにもなりますが声の話しではあり得ません。

音の伝わり方

  ヘリウム中で音速が上がり、波長が延びることを、どう納得したかを書きます。

  気体は、物質の種類によらず分子が均等に分布しています。
  均等になろうとする力が働くと言うことです。
  また、分子は勝手に運動していますが、大局で見ると気圧の高いところから低いところへ風が吹くことも事実です。
  いまは、この熱による分子運動は無視して、止まっているとして考えます。
  音叉が気体中で振動すると、周囲の空気の分子は、引っ張られたり、押されたりします。
  均等になろうとするので、分子の移動は周囲へ広がります。
  音叉の周囲の空気は、往復運動をしていて、遠くへ飛んでいくわけではありません。
  エネルギーが遠くへ伝播していきます。
  音叉に押されると、その近傍の分子の間隔は狭くなり、密な状態になります。
  密になったところは反発して分子の間隔は広がり、疎の状態になります。
  疎になったところは、引き合って、また密になります。
  この疎密の繰り返し運動(分子の往復運動)が音です。

  音速は、媒質の密度に反比例します。空気は29 g/mol、ヘリウムは 4g/mol と大きく異なります。(気体は、物質によらず、同じ体積には、同じ個数の分子が含まれます。)
  同じエネルギーを加えると、その移動速度は、分子の重さに反比例することが想像できます。また、軽いほど遠くへ移動することも想像できます。

  空気中でもヘリウム中でも、同じ周波数なら単位時間の分子の往復回数は変わりませんが、ヘリウム中では速く音が伝わることになります。




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