遺伝子と突然変異
遺伝子
1842年に染色体が発見され、1865年にメンデルの法則が発表されている。遺伝を司る何かがあることは昔から気付いていたに違いない。
生き物の形質は、先天的素因と後天的な素因によって決まると考え、境界を発生だとすれば、先天的な素因が遺伝子と言うことになる。
ヒトのことを考えると、後天的な要因も、やはり大半がヒトの遺伝子の発現によってもたらされている。集団としてのヒトを考えれば、遺伝子を知ることは、人の形質、精神活動までも知ることだ。
こう考えると、遺伝子解析とか遺伝子判定と言った使い方は大げさすぎる気がする。
確かに、塩基配列としてのヒトゲノムの解析は終わったのかもしれない。しかし、ヒトが理解できたわけではない。
DNAのある部分について、機能がわかったものもあるだろうが、それはヒトや社会としての総合的な意味を云々しているわけではない。
ウイキペディアの「遺伝」を引くと「遺伝子≠遺伝情報に注意」とある。これは、DNA以外にも、細胞質遺伝や他の塩基配列、プリオンがあることを指しているものだと思う。
普通に遺伝子と言えば遺伝情報を司るすべてのことだと思う。もともと、どこに実態があるかがわかる前から遺伝子と言う言葉が使われていたはずだ。
これに対して、「遺伝子と表現型」と言うような場合の遺伝子は、DNAの一部分を指している。生命活動に必要な特定のタンパク質の合成に関与する部分(単位)と言うことだと思う。
また、その他の部分を、偽遺伝子、ジャンク遺伝子と言うので、塩基配列と言うのと大差ない。
遺伝と細胞分裂
遺伝は、親から子へ伝わるような形質のことで使われる。
これに対して、遺伝子と言うと遺伝子が複製され、多くの場合、細胞が分裂することに使われる。
この2つは大きく違う問題に思える。
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細胞の生存に支障のない変異が起きたとして、そのほとんどは親から子へは遺伝しない。遺伝しないが、遺伝子は複製可能なら複製されて引き継がれていく。その個体の問題となる。ガン化のような病気の話では重要だ。
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染色体異常(数や外観の異常)も、発生の初期や、後天的に起きるもので親から子へは伝わらない。生殖時には、すべての染色体が関与するわけではないし、減数分裂や受精があり、そのまま伝播しない。
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生殖細胞にある変異のみが遺伝する。おそらく、変異は生殖細胞で起きた。そして、その個体には特別な影響はない。その変異の発現がどんな影響を持つかは、子の個体で試される。それが生存繁殖可能なら遺伝していく。
真核生物
遺伝と生命は不可分な言葉だ。生命は代謝に代表されるらしいが、代を重ねない生命があるなら、別な名前を考えるだろう。
遺伝子は生命を持つもの(生物)に共通の概念だ。ヒトと同じ仕組みでの話はどこまで有効なのか。それが、真核生物であるらしい。真核生物なら、ヒトと同じ機構で生命維持、世代交代を説明できる。
それ以外の生物では、少し説明を変える必要があるらしい。
染色体
DNAという言葉が一般的になるまでは、おそらく遺伝情報そのものとして使われていたものと思う。
主に顕微鏡で観察可能な、染色体数や形状の話で使われる。染色体異常は、染色体の外観(数や形状)の異常を指している。それは発生の初期に起こるものや、個体の局所に起きる現象で、主にその個体にのみ影響する。
染色体は、分裂期に観察された。観察可能な染色体を持たない生物もある。染色体を「遺伝情報」や「遺伝子」と言う意味で使う場合以外は、観察されないものには使われないものだと思う。
もう一つは、「DNAを折りたたんだ状態」と言うことを指すこともあるらしい。核内に収納されたDNAは同じ重量のヒストンによって中和され安定した状態で折りたたまれている。DNAとヒストンが染色体と言うことだ。真正細菌には核がないが、DNAは「核様態」と言う形にまとまっている。「原核生物は染色体を1つのみ所持し、...」とあったりするので、これも染色体と言うことがあるようだ。
塩基配列
塩基配列が遺伝情報そのものであると言うことだが、どのように解釈されているのか。
塩基配列は、合成されるタンパク質を決めている。タンパク質の生産によって遺伝情報を発現させる。
アミノ酸は、3塩基の組(64種)で決まる。トリプレットと言う。メッセンジャRNA(mRNA)ではコドンと言う。トリプレットが示すべきアミノ酸の種類は20で、このほかに終止コードが必要になる。
コドン表があり、コドンとアミノ酸の対応が記されている。これは、全生物で共通か。「コドン表はいくつかある」と書かれているので、1つではないが、共通性が高いらしい。
コドン表は64個のセルがある訳だが、アミノ酸が20種なので、同じアミノ酸を示すコドンが複数ある。
開始コドンから終止コドンまでが合成されるタンパク質に対応する。
それ以上の区分の仕方はわからない。
読み枠
塩基配列を記号列とみて翻訳機構を想像すると、3塩基分のフレーム(枠)があって、枠が3塩基分ずつ移動する、あるいは塩基配列を3塩基分シフトする、ことが思い描ける。
これは、ハズレではないようで、「読み枠」と言うらしい。
この重要なことは、塩基の欠損や挿入が起きて、3塩基のトリプレットが崩れると、すべてが破綻することだ。
この変異をフレームシフト突然変異と言う。この場合、コドンが終止コードとなる確率が高く、短いポリペプチドを検出して、「nonsense mediated mRNA decay」によって分解されるらしい。
機能遺伝子と偽遺伝子
機能遺伝子は用語ではないのかもしれない。DNAの塩基配列のうち、遺伝子は1割しかないと言うので機能遺伝子と偽遺伝子としておく。遺伝子は合成されるタンパク質を決めるもので、機能はどのタンパク質をいつ、どれだけ作るかと言うことになる。
機能遺伝子には、構造遺伝子と調節部位がある。構造遺伝子は直接タンパク質の構造(アミノ酸配列)を決め、調節部位が生産をコントロールしている。
「遺伝子は1割しかない」と言いながら、その他も、偽遺伝子と遺伝子が付く。
偽遺伝子は、正常な機能遺伝子とよく似ていることからのネーミングのようだ。かつては、正常な遺伝子だったものが突然変異で機能しなくなったと考えた。遺伝子領域外の総称ではないようだ。
また、機能遺伝子に分類されていない領域も役割があると考えられているようだ。
非翻訳塩基配列も、偽遺伝子やジャンク遺伝子と同じようなことだろうと思う。
遺伝子型
塩基配列を調べる訳ではなく、血液で免疫型などを調べて、遺伝子を定めるようなケースに使われている。要はDNAなどを解析する前からあった用語だと言うことだと思う。
マーカーとなる変異は、表現型を持つ必要がある訳ではない。しかし、旧来は表現型がなければ検出ができなかった。
塩基配列の解析から求まる変異型の一部分と、「遺伝子型」は対応が付くはずだ。しかし、一対一である保証はない。
このこととは別に、言葉通りの意味で、総称としても使われているのかもしれない。ミトコンドリアDNAの型とかY-DNAハプロタイプと言うのが出てくるが、総称はなんと言うのかわからない。
表現型
表現型の説明には、ABO型血液型が出ていた。A型の人には、A/A と A/O の人がいると言うことらしい。両親からAとOの遺伝子を受け継ぐと表現型はA型となると言うように使うらしい。
塩基配列上のどこがA,Oを定めるかは知りえるかもしれない。しかし、A/A 、 A/Oが何を発現しているかはわからない。血液型がA型と判定されることは、その中の1つに過ぎない。
進化
遺伝する変異の積み重ねが進化と言うことになる。遺伝しない変異は進化には直接関係しない。また、生存に明らかに不向きなものは直ぐに伝えられなくなる。
また、遺伝する変異であっても、同義置換や偽遺伝子領域の変異は進化には結びつかない。
進化は退化と対なので良いことの含みがある。
突然変異
遺伝する突然変異
親から子に遺伝すると言うのは当然として、ガン細胞が増えていくのは遺伝と言うのだろうか。
突然変異は、生殖細胞に限らずどこでも起きるはずだ。それが分裂を阻害しなければ受け継がれていく。しかし、ヒトなら生殖細胞でない限り、子へは伝わらない。
このことは、突然変異の起こった個体自身はその影響を発現していないことを想像させる。
染色体異常
染色体数や染色体の外観の異常として認められる突然変異のことだと思う。
そして、DNAなどの言葉が一般的になるまでは、おそらく染色体異常は遺伝子異常のことだったと想像する。
しかし、親から子へ伝わる変異は生殖細胞で起きると理解できるが、染色体異常は違う。
おそらく、異常それ自体は個体の発生初期に起きる。次の世代へは、減数分裂や受精が行われるので、染色体数の異常がそのまま伝わることはない。
遺伝子は全身一様か
個体の中では、どの細胞も同じ遺伝子を持っているのか。それが違うことはモザイクがいるので明らかだ。また、移植やガン化した細胞を持っているかもしれない。
全身同じ遺伝子を持っているかのような説明は、遺伝子の発現が体の部位によって違うことを言おうとしているケースだと考えられる。
普通には、最初の1つの細胞の1組の遺伝子から面々とコピーされて体の部位が形成されて同じ染色体を持っているわけだが、生きているための必然ではない。
部位による遺伝子の発現も、遺伝子で制御されているに違いない。
多型
ミトコンドリア・イブやルーツの話で出てくる多型の話は、突然変異のことではあっても、遺伝子の話ではない。
当然、多型が形質に影響しているケースもあるだろうが、塩基対配列がマーカーになると言うだけだ。機能遺伝子部分でなくても構わない。変異のあることが検出可能なら、その変異の影響は問題ではない。
要点は、代々、受け継がれていて、ある程度集団の中に分布していることだ。つまり、生殖細胞に起こった突然変異のうち、生存に顕著な悪影響のないものと言うことだと思う。
多型もDNAの解析以前から、表現型の多型の意味で使われていたらしく、「集団に1%以上存在する」と言った条件が書かれている。型を構成する対立遺伝子を定めるのも検出方法に依存するので基準は必須である。
しかし、直接塩基配列を分析しての話なら、このパーセンテージには意味はあまりない。必要なことは、その変異が、そのDNA固有だったり、その個体固有だったりしないかと言う判別だ。
親から子へ伝わっていかない変異は、ルーツを探す際のマーカーには使えない。
ただし、個体の問題として病気などを考える場合には、集団で何パーセントでも、親から子へ伝わっていかない変異でも、多型と見なして何も問題がないように思う。
集団の遺伝子
ガン化のように個体の問題としての変異がある。しかし、これは親から子へ伝わらない。
親から子へ代々伝わるような変異は、積み重なって新しい種を生み出す。トリガとなる変異があるのかもしれないが、それまでに起きた変異がリセットされるわけではない。
何が種を分かつのかはわからないが、種として分類替えされる前にも、いろいろな形質変化を起こしていく。
これは、ある個体で起きた変異が集団に広がることを前提にしている。そして、地理的に近いほど密度が高いことも想像できる。
一人の人には2人親があり、その親が4人、...と考えると、たちまち全人口を超える。親はそれだけ重複していることになる。
ミトコンドリア・イブ
チンパンジーとヒトのDNAの差異は、1.4%とも2.7%と言うようだが、当然ヒト同士ならさらに小さいに違いない。
共通である部分は、チンパンジーとヒトが分かれる前に持っていたものと考えられる。
同じように、ヒトのDNA同士でも同じことが成り立つ。何人かのDNAを調べ、差異の少ないもの順に並べて近縁、遠縁が言える。これを各人について行えば、変異の起きた順序が推定できる。
変異の種類と確率
話題がガンのような個体の問題か、民族のルーツなどと言った集団の問題かが一番最初の分岐点のようだ。
前者なら、変異箇所とその影響が話題になる。検出される変化をもたらさない変異は問題でない。
民族のルーツなどの話題では、親から子へ伝わる変異だけが問題である。進化の話題も同様である。こうした話題では、変異がどんな効能を持っているかを含む場合と含まない場合がある。マーカーとして考えると、その変異の効能は問題ではない。背が低いとか色が白いと言った民族的特徴が書かれていても、マーカーとなっている変異が引き起こす形質であるとは書いていないことに注意が必要だと思う。
変異を起こすメカニズムについては、両者に差異はない。日常的にDNAにはコピーミスが起きる。自動的に回復手順が取られたり、アポトーシスが起きたりして始末される。機能的な変化のないもののこともある。また、転写や細胞分裂にダメージを与える変異も自然に消滅する。
免疫機構もすり抜けて増殖を続ければガンと呼ばれることになる。
変異のうち生殖細胞に起きた場合、子に変異が伝わる可能性がある。しかし、代々伝わることはそう簡単ではない。
変異の起き方には、規模で、 変異の起き方には、規模で、
- 1塩基(ヌクレオチド)の変異
- 複数の塩基(ヌクレオチド)の変異
があり、それぞれに、
- 置換
- 欠損
- 挿入
- 転移
があり得る。
それぞれ、起こり易さには差があるに違いない。
起こり易さの中には、変異の影響が含まれている。つまり、代々親から子へ伝わる変異は、生存には支障がないものだと言うことだ。これについては、まったく形質に現れないとか、有利、不利と言った物差しも出てくるが、これは客観的に判断することはできない。
1塩基置換
頻度が高く調べやすいのは、1塩基の置換だと言うことは想像が付く。同じ意味で「点突然変異」とも言うらしい。
この変異を検出対象にすれば、一塩基多型(SNP)を調べることになる。
ヌクレオチドは2つのグループ(プリン塩基:A、G/ピリミジン塩基C、T)があり、同じグループの物への置換をトランジション、異なるグループの物への置換をトランスバージョンと言い、トランジションが1ケタ起こり易い。
同義置換
3塩基で構成されるコドンがアミノ酸を決めるが、置換の結果も同じアミノ酸を指す場合がある。同じアミノ酸をコードしたコドンが複数あることによる。特に3番目の塩基は置換しても同義になる割合が高い。サイレント変異。
ミスセンス変異(非同義置換)
同義置換以外は、置換によって、コドンが別のアミノ酸を示すことになる。
ナンセンス変異
変異によって、アミノ酸を示すコドンが終止コードに代わる変異。タンパク質が分断される。
これがあるなら、終止コードが終止コードでなくなる変異もあるだろう。
点突然変異
1塩基置換のことだったり、これに1塩基の欠損、挿入を加えたものを指したりする。
転移
トランスポゾンやレトロポゾンと呼ばれ、組で、DNA、RNA上の位置が変わることがあるらしい。トウモロコシの実の斑入りが発見のキッカケであるらしいので、転移する仕組みを持っていると言うことだと理解する。したがって、突然変異ではないのかもしれない。
しかし、種の間の相違は、タンパク質をコードした部分ではなく、主にトランスポゾンにあると言った記述は結果を指している。
確率
確率の話も前提があってのことのようだ。トリガと、発生確率、生存確率がありそうだ。
自然現象ならトリガとなる事象は一様の確率で起きると考える以外ない。
同じトリガでも、化学変化として起きやすいものと起きにくいものがあると言うのもうなずける。
多くの場合、このどちらでもなく、生存確率の話をしているのだと思う。
生存確率は正しくないとは思うが以下のような意味だ。
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変異そのものは、どの個体、どの細胞にも等しく起こり得る。
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それには、起こり易い変化と起きにくい変化がある。
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それが生存可能であることは、発生確率に比べてはるかに小さい。
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それが、長期にわたって受け継がれることはさらに少ない。
ミトコンドリア・イブの話では、長期にわたって受け継がれるものだけがマーカーになる。
こうしたテーマに限れば、遺伝子領域の変異確率は低く、Dループに変異が多いと言った記述が理解できる。遺伝子領域に起きた変異は致命的なものが多いことが想像できる。
塩基置換速度を進化速度と言うのもの混乱させる。進化は形質に現れるものを指すので、変異確率が理解できなくなる。ここでの進化は単に分子構造が形を変えた(分子が進化した)と言うことなのだろうか。
分子時計としての話での塩基置換は、進化、遺伝と言う語感とは別な話のようだ。
分子時計も原子時計から正確な時計をイメージするかもしれない。しかし、塩基置換の話しからは感じられない。
発生順序が知りえることは理解できる。また、同じ時期の長短は比較できる。 |