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 命数法(記数法)

  数を書き表すときに使用する記号は文字と考えると少し特別です。文字は言語を超えて誰にでも見えるので、読みとは無関係に、意味が通じると便利な面があります。数字は、その典型的な例だと思います。
  123,456円と書いてあるとします。まず、カンマを3桁で挿入する習慣があります。また、12万3千456円と書く方が日常的で、これは発声と同じになります。

左図は、フェニキア文字で記された碑文の中にある14と翻訳されている文字です。U+10916、U+1091B、U+10917 で、One、Three、Ten と説明されています。つまり、1+3+10  = 14 のようです。
  この碑文は、アフロ・アジア語族セム語派の言葉を記録しています。この記数法は、バビロニア由来ではなく、エジプト由来ではないかと思いました。

  英語の訳文は 14 を、fourteenth と記しています。fourteenth のような命名を含めて全般を命数法と言うようです。
  記数法は、演算することを前提とした、数値の記法のことのようです。
  また、数記法と言う語も使われますが区別はわかりません。

数詞

  数を表す文字は、数自体を表す記号と、位を表す記号から成り立っています。
  google翻訳で「百八」を中国語に変換すると「一百零八」となります。
  「百八」が中国語の場合、その日本語は「百80」と異なった値に翻訳されます。
  中国では、アラビア数字の考えを漢数字に取り入れていて、日本はゼロのない時代の漢数字の使い方を守っているようです。
  また、「百」は「一百」ではなくなっています。「百官、百姓」は、多くの官吏、多くの民衆の意で、「多くの」に使うことが背景にあるのかもしれません。
  「百」は100の位を表す音「ハク」と「ー」からできていて、本来は「一百」の意味で作られているようです。

  「百」は、それ自体が数値を表す場合と、位を表すだけの場合があります。
  日本では「百」が100を表しますが、「八百」は1つの数値 800 を表し、「八」と「百」ではありません。
  最初に上げたフェニキア文字では、右から左へ読んで 10,3,1 と書くと、14になるのとは異なっています。
  この加算による数値の表現は、声に出して読むことを考えると不思議に思えます。また、計算に向いているわけでもなさそうです。
  数詞が値を表すものだけでできている点は利点に見えます。位を表す方法は「百八」の例のように習慣の差があり誤解のもとです。

  算用数字で、1,3 と書くと、13 と言う値を示します。これは、1+3 ではなく、1 x 10 + 3 と言うことです。
  「加算による数値の表現」と同じように、数詞が値を表すものだけでできています。
  ただし、加算ではなく、「桁で位を示す」方法です。

  中国の漢数字の使い方は、ほぼ算用数字と同じ「桁で位を示す」になり、読みやすさ、視認のしやすさから、「位を示す記号」を使っているように見えます。しかし、連続する零は、1つしか書かない点で差があります。この場合、「位を示す記号」は重要になり、零は「飛んでいくつ」と言う意味に解釈されます。

基数詞、序数詞

  最初に掲げたフェニキア文字の碑文にある 14 は、英訳では in the fourteenth year となっていて、数字ではなく序数詞で記されています。英文の場合、数字を避けて、数の読み、あるいは数を表す語を使うのが普通のようです。
  おそらく four は、4 の読みで、quattuor からはクワッド、クオーターが派生するので、これは 4 の概念を表す語だと思います。
  数字には、チームの人数とか、神秘性などの、計数や計算以外の要素があります。
  読みとは直接関係なく、最初に、数をカウントするための記号があったと考えるので、これは置いて、計数や計算する数字を考えます。

N進法

  記数法を調べるとN進法を説明していることがあります。一間は6尺で、時計は12間で一回りし、1時間は60分です。
  しかし、こうしたことをN進法だと意識しているわけではありません。

  コンピュータで使う16進表記で 11 と表すと、値は 17 (=16+1) を示します。同じ数列が異なった値を示すのでこれは無視できません。
  しかし、こうしたことは実際の文字では起きていないようです。
  バビロニアの数は60進だと言いますが、後述のようにバビロニアの 11 が示す値は、11であって、61ではありません。

  家畜や兵力をカウントして記した値は、その数に解釈されるのは当然で、何進かと言った問題とは無縁です。
  N進法が問題なのは演算が行われる場合の桁あがりのときです。まず、多くの数の表現方法が演算を目的に作られていないことがあります。数字の主な目的は計数と記録のようです。

  バビロニアの数の場合、90を表す記号と、9を表す記号を組み合わせて、99を表すことができます。
  しかし、もっと大きな数を表すことを考えると、工夫が必要になります。
  延長線上で考えると、100、200、・・・、900 を表す10個の記号を作ることになります。さらに、大きな数のためには、順次、新たな記号を作ります。
  もう一つの方法は、位を表す方法の導入です。
  実際には後者が導入されました。順序による位の表現で、位取りの低は 60 です。
  最下位の位は1を単位に数え、次の位は60個の集まりの個数を数えると言うことです。

記数法

  「数詞」で考えたように、単に値を表す記号と、主に位を示す記号があることが分かります。

算用数字(アラビア数字)

  ゼロを示す数字がある。桁で位を決める。数値を表す文字だけで構成される。
  アラビア数字にカンマを入れたり、万や千を加えたりしますが、これには地域ごとに異なった習慣があります。
   アラビア数字は、数値を表す文字だけで構成されると考えておきます。
  1桁ごとに位を表すため、ゼロと、1 から 9 の 10 種類の記号だけで構成されます。

ゼロ

  記述上の位置(順序)が位を示すなら、空の位を示す方法が必要になります。
  ゼロを表す記号使われている最古の記録はジャヤヴァルダナ2世の銅板(8世紀)のようです。
  バビロニアの数の場合、空の位を含むサンプルを見つけることができませんが、間を空けると説明したものはありました。
  間を空ける方法は、末尾と、2つ以上連続するときに問題があります。
  わたしには、各位が1から59までの値かどうかもわかりません。記号としては各位は 99 まで表現可能です。この場合、空白を使わずに問題を回避できます。

漢数字

  1. 万までが漢字文化圏で共通した位取り
  2. 1248年には〇が使われている(測圓海鏡、李冶)
    現在のベトナム、韓国では「空」が使われるらしい。
  3. 718年に漢訳された九執暦に点を打ってゼロを表す方法がある。その後、「空」、あるは欠字を表す「□」が使われた。
  4. 〇の字形は則天文字にあり星を表した。数字の〇は、これと無関係に「□」から記されるようになった。
  5. 零は少ないことを表すが、測圓海鏡では「〇」と「零」は同一視されている。
  6. 廿、卅、卌 は、一般的に使われ、漢字文化圏で使われていたようだ。
    日本では、戦前から会計法などで禁止的条項があるため使われなくなったようだ。
  7. 「ー」を「壱」と書く習慣があり大字と言う。
    民の初代皇帝である朱元璋(在位1368-1398)が大写(大字)を定めて官吏の不正を防いだことに始まるらしい。
    零壹贰叁肆伍陆柒捌玖拾佰仟万元角分
    日本では、8世紀に大宝律令で公文書の大字使用が定められた。
    現行法でも、義務付けがあり一部使われる。
  8. 読み方や位の表し方には国別に大きな差がある。
    100 や 1,000の場合、百と千として一を読まないが、中国では読む。おそらく記法も同じ。また、間にある零は、「飛んで」いくつの意で、必ず1どだけ読む。「百八」は180であるらしい。google翻訳で「百八」を中国語->英語とすると「Hundred and eighty」となる。
    日本語->英語の場合、「One hundred and eight」となる。「百〇八」でなければならない。
  9. google翻訳で「十有五」を中国語->英語とすると「At fifteen」となる。
  10. 二千元は、两千元。两も数詞のようだ。
  11. 小数点以下について、秦代の度量衡制度で度は分、釐、毫、絲、忽が決められた。
    日本では、割があり良くわからない。
    五分五分は、0.5 を示し、1割五分は、0.15を示す。

ひふみ

  おそらく漢字伝来前からの数え方で、「ひ、ふ、み、よ、い、む、な、や、こ、と」と数えます。
  「ひとつ、ふたつ、みっつ、・・・、とう」と言う数え方の短縮ですが、10までしかありません。
  「とう あまり ひとつ」のように数えることは行われました。
  また、百は「もも」であることも確かです。「ふたとせ」は「2年」で、「はたとせ」は「20年」、「はたち」は「20才」、「みそじ」は「30才」、「みそひともじ」は「和歌」のことです。
  「すさのをのみことよりぞ、みそもじあまりひともじはよみける」(古今和歌集仮名序)とあり和歌は「みそもじあまりひともじ」だったようです。
  Wikipedia にある「ひふみ詞」は、「ひ、ふ、み、よ、い、む、な、や、こ」 と、位の、と(十)、も(百)、ち(千)・・・ を漢数字のように使うことを示すようですがわかりません。

算用数字

  アラビア数字と説明される普通の数字は字形は世界中で共通ですが、日本語のように位取りの漢字を混合したりするので記法としては1通りでないことになります。

バビロニアの数字

  楔形文字は広い地域で4千年以上使われます。使われている字形も多様です。また、記数法そのものも一通りであるのかどうかわかりません。
  Unicode が収録しているフォントはバビロニアの楔形文字と言うことですがどれが数字なのか区別が良くわかりません。
  アッシリアの楔形文字の資料には数字が書かれていました。

  これを見る限り、10を単位とする記法で、漢数字と大差ないように見えます。漢字でも、21を「廿ー」と書けば一致しています。二十一のようにすると位を表す文字の有無で差があることになります。
  具体的な例を見てみます。

  YBC 7289(Yale Babylonian Collection)は、BC1800 から BC1600 の粘土板で2の平方根を表していると言うことです。
  概ね左図のようです。

  この例では、40以上の十の位を表す記号は、1の位の記号を45度回転したものになっています。
  wikipedia が60進法の説明に挙げている表(バビロニア数字)も、45度回転したものになっています。
  アッシリアの数字の方が、より洗練されているように見えますが、単に年代の差なのかもしれません。

  左図の、1、24、51、10 の数列は、以下を表すと解釈されます。

  42、25、35 の数列は、1辺が30の場合の対角線の長さです。

  値は、1桁か2桁の数字の組を連ねて表しています。その表記は10進です。バビロニアの数が60進数と言うのは、この組を位取りするときの話しのようです。
  この記法では、1桁か2桁の数字の組を単位に、記述順で位取りすることになります。
  このとき、1桁か2桁の数字の組の値が 1 から 59 であると60進数になります。ゼロがないので文字間を空けて書くことでゼロを表したようです。
  この方法は、ゼロが続く場合と、最終桁がゼロの場合不明瞭になります。
  1桁か2桁の数字の組は、1 から 99 まで表現可能なので、これを利用してもゼロを回避できたと思います。

エジプト

  古代エジプトの文字は、ヒエログリフ、ヒエラテックがあり、主に記録媒体によって使い分けれています。いずれも、右から左に読みます。
  また、BC660以降はデモテックが使用されるようになります。
  数字も、それぞれ、ヒエログリフの数字、ヒエラテックの数字、デモテックの数字と言うようです。
  ヒエログリフの数字とヒエラテックの数字は明らかに異なっています。

ヒエログリフとヒエラテックの数字

  ヒエログリフの数字の記号は、10進の位に対応しています。各記号は、1つから9つまで並べて使います。
  ヒエラテックの数字では記号を増やして、少ない文字数で値を表現します。

  デモテックの数字は、ヒエラテックの数字と同じ方式で、記号も類似しています。単に時間経過による変化なのかもしれません。
  数字が文字体系によって使い分けられる根拠はなく、以下の例のように、パピルスに記録されたヒエラテックの文書でもヒエログリフの数字で記されています。

  モスクワ数学パピルス(Moscow Mathematical Papyrus)と呼ばれる遺物があり、下図左のような図が記されています。
  正方形の底面を持つ四角錐を、底面に平行な面で切断した立体を想定します。
  底面は一辺が4の正方形です。上の面も正方形で一辺は2です。高さは6です。
  この体積を56と算出するものです。

  

四角錐を底面と平行に切断にした形状の体積

   ヒエログリフの数字の方法は、他の主要な記数法より基本的です。
  記号が位を示す方法の中では、ある数値を表すために必要な文字数が最も多く、もっとも数字記号の種類が少ない方法になります。
  他の主要な記数法では例がなく、他の主要な記数法は、何らかの文字数を減らす工夫がなされています。
  ヒエラテックの数字の表現は、「1、2、・・・、9」「10、20、・・・、90」「100、200、・・・、900」、・・・ と、10進の位を表す数を記号化しています。
  たとえば、999 までの数を表すのに、ヒエログリフの数字は3種類の記号だけを組み合わせます。
  ヒエラテックの数字の場合は、27種類の記号を使います。
  123を表すのに必要な文字数は、ヒエログリフの数字では6文字で、ヒエラテックの数字では3文字です。

エーゲ数字

  Unicode のU10100 には、AEGEAN NUMBER が含まれます。
  クレタ島で見つかった粘土板は、2つの文字体系、線文字A、線文字Bに分類されました。
  線文字Bは、ギリシャ語を記録しています。 BC1450ころからBC1375ころ(ミケーネ文明の前半)まで使用されました。
  線文字Aは、BC1450 より前に、ミノア文明(BC3650ころからBC1425ころ)で使用されました。線文字Aが記録しているミノア語がどんな言語だったかは分かっていません。
  この間、同じ記数法が使われたようで、Unicode は、ミノア、ミケーネの数字として収録しているようです。

 フェニキアの記数法

  Unicode には、左図の文字があります。
  縦棒で数値を表すのを、1、2、3 の3つのパターンで収録していますが、これは便宜上ではなく、実際にも、この3つのパターンの間は開けて書かれるようです。
  フェニキアの文書は右から左に書かれますが、ここでは、左から右へ書きます。

古代ギリシャの記数法

アッティカ式(Attic numerals)

  紀元前7世紀ごろから紀元前4世紀にかけてギリシャ語の記述に使われた記数法。良く似た性質のローマ数字に置き換わる形で使われなくなったようです。
  頭音法式(acrophonic system)と言うことがあり、I 以外は、数字の名前の頭文字を記号に選んだことを指すようです。
  πέντε、δέκα、・・・ 

  この記号を適切に組み合わせて数値を表現します。

  各記号が値で、各記号の値の合計が、数字列の示す値になります。
  記号の順番を入れ替えても数字列の示す値は変わりませんが、必ず値の大きな記号から並べるようです。
  また、5を示す記号を2つ書くと言ったこともしないようです。
  この記法では、ゼロを表す記号は必要ありません。

  アッティカは、アテネ周辺を指す地名ですが、アッティカ式と呼ぶ理由はわかりません。

イオニア式(Ionian numerals)

  通常の文字を数字に割り当てます。文字列中での識別は、アポストロフィーで終わる単語と言うことのようです。
  大文字も小文字も使われています。

  1万以上の数については、複数の表記方法があります。オリジナルを示している資料がないのと、どの資料も1つの記法しか載せていないので、差がある理由はわかりません。

  1つは、1234 1234 を以下のように表記するとするものです。

  また、7175 5875 を以下のように記したと言うことです。(アリスタルコス(BC310-BC230)の著述にあるらしい) 

7000 100 70 5 5000 800 70 5
Ρ Ο Ε Μ 'E Ω Ο Ε

  千の位のマークが、「,α」ではなく「'α」のような記法になり、Mの上にあったものがMの前に来ています。

  この2つの例では、 Ϻの前後の4ケタは同じルールで記されます。
  Ϻは「万」と同じです。その前の数列を1万倍します。

σ λ δ Ϻ σ λ δ
二百 三十 二百 三十

  もう一つは、5875 7175 0269 を以下のように記したと言うことです。( ペルガのアポロニウス(BC262-BC190)の著述にあるらしい)

  χαι は、4桁の区切りにあって連結(加算)されることを示しています。
  M は、続く4桁の数字の位取りを示しています。M の上の文字が α の時は104、βは108、・・・ を表します。  

  いずれも、4桁が1組で、4桁の組は同じルールです。この4桁の値は各記号の値を加算しています。各記号の値は、最上位の桁以外はゼロで、桁上がりが起きることはないことが前提になっています。
  したがって、記号の順序を入れ替えても値は変わりませんが、必ず値の大きい方から並べています。
  この記法では、ゼロを表す記号は必要ありません。

  イオニア式の名前の由来はわかりませんが、アナトリア半島の西端をイオニアと言い、BC2000頃にこの地域に移動した古代ギリシャ人の集団をイオニア人と言うようです。
  小アジアに進出したペルシャが最初に接触したのがイオニア人で、東方へはイオニア人はギリシャ人の意で伝わったようです。
  イオニア学派の名称は後代与えられますが、その成果も後代へは写本で伝わったはずで、紀元前4世紀ごろからとされるイオニア式の記数法で書かれていても不思議はないように思います。

ローマ数字

  ローマ数字は現在でも普通に使われています。wikipedia で「ローマ数字」を引くと、「ヴィクトリア朝時代に成立し」とあります。古代ローマの家畜の計数に起源があり、古代ローマ帝国の算盤などの遺物にも記されていることも書かれています。
  また、ヨーロッパでのアラビア数字の使用は、AC976のようで、それ以降もアラビア数字とは異なる需要があることを示しています。

  基本的な考え方は、アッティカ式のギリシャ数字と同じです。

1 5 10 50 100 500 1000
I V X L C D M

  123 は、CXXIII と表します。
  古代ローマの文字は、イタリア中部を占めていたエトルリア人の文字の影響を受けています。エトルリア文字はギリシャ文字からBC700より前に作られました。

  I を5つ書いて5とするようなことはしないことが前提です。
  ローマ数字では、IIII を IV と記す方法が使われます。今では、後者が普通ですが、時計の文字盤は前者のようです。IV、IXのように、5のひとつ前、10のひとつ前と言う表記を、減算則と言うようです。
  これは、桁数を減らすことになるのは確かです。

 ウルク古拙文字の数字

  古拙文字は、楔形文字の原型ですが、数の表記では少し異なっているようです。

   スタイラスは円柱で両端の円周が異なった物を使って描いたようです。垂直に押し付けると、大きさの異なる2種類の円が描けます。また、斜めに当て指先のような形を刻みます。
  60進数表記ではなく、記法も複数あるようです。

  数字の扱いと、文字が楔形になるのは必ずしも同じことではないと思います。
  ここに挙げた記号はBC2400には使われていて、BC2000には楔形文字の数字に変わっているようです。


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