法線と鉛直線
地球の準拠楕円体の値打ちは、接平面を水平面、法線を鉛直方向として扱うことにあると思います。準拠楕円体の表面の点Pにおける接平面は点Pにおける水平面で、点Pを通る法線は点Pにおける鉛直線です。しかし、直接的に、これを示した説明は見たことがありません。
なぜ、法線が鉛直方向を示すと思ったのかを思い返すと、地理的緯度の説明です。
図は点 を通る経線による準拠楕円体の断面です。錘を下げて鉛直方向に直線Bを引き、それに直交する直線Aを引きます。 緯度φは地球の自転軸で決まる無限遠にある天の北極の高度を測って求めます。直線A、Bは錘を下げた観測に基づいています。 直線A、Bを点Pにおける接線と法線と考えます。 xz平面の原点を中心に描いた、x軸半径 a、z軸半径 b の楕円の点P における接線は、 (1) なので、普通の直線の式に表すと以下のようになります。 (2) 準拠楕円体の扁平率を f とすると、回転楕円体である準拠楕円体の経線は、扁平率 f の楕円です。長半径 a、短半径 b も楕円体と同じです。 長半径 a=1 とした縮尺で計算するので、b=1-f です。 点P における接線の傾きは、 (3) 切片は、 (4) | |
したがって、接線に点Pで直交する法線の傾きは逆数の、
(5)
この傾きの直線が点Pを通るので、切片は、
(6)
この切片は自転軸であるz軸との交点で、経度によらず緯度だけで決まる値です。接線を求めるまでもなく、回転楕円体の表面の点の座標のzの値から計算できるので、その点と、この切片から直ちに法線を引くことができます。
x軸との交点は、
(7)
離心率を e とすると なので、
(8)
回転楕円体の表面の点P があって、Pを通る経線が作る平面をxz平面と見なして考えました。
点Pを としましたが、 、 です。
は、自転軸から点Pまでの距離です。
赤道半径が 1 の回転楕円体を考えているので、等緯度線は真円です。
経度を とすると、 です。x、y は経度 λ だけで決まります。
上の図から、 なので、
(9)
したがって、
(10)
となり、z は緯度 φ だけで決まります。
また、上の図のように補助円を描いて、更成緯度 β を考えます。点Pから赤道面に降ろした垂線が補助円と交わる点P'と、原点を結んだ直線が、赤道面と成す角です。
緯度 の更成緯度を β とすると、
(11)
(12)
なので、
です。式(9)から、
したがって、
(13)
(14)
また、 と赤道面のなす角 θ は地心緯度で、
(15)
(16)
自転によって赤道付近が膨らんだ回転楕円体を、自転軸をz軸、赤道面をxy平面としたxyz直交座標で考えます。
自転軸の両極を通る経線はすべて同じ楕円です。極方向から見た回転楕円体は真円です。どの経線を起点に選んでも同じですが、x軸を経度のゼロとして東周りに経度を測ることにします。
回転楕円体の表面の点Pの法線を、経線の作る平面上で考えました。これは、点Pにおける経線方向の接線の法線です。
3Dで考えると点Pを通る接線は無数にありますが、すべてPにおける接平面上にあります。点Pにおける接平面のPを通る法線は1つです。また、等緯度線は真円なので、円周上のどの点の法線も1点でz軸と交差します。
点Pを通る接線は無数にありますが、接線と法線で決まる法平面は、方位を示します。点Pにおける法平面と、Pを通る経線が作る平面の成す角が方位角です。
これらの関係から、(地理的緯度 φ、経度 λ)を、xyz直交座標に変換します。点Pを通る経線の作る平面をxz平面としたので、xは経度λに応じてxyz直交座標のx,yに分解します。λ=0 はxyz直交座標のx軸方向と決めます。
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GRS80の赤道半径 6378137m 、扁平率 1/298.257222101 を使って計算してみます。
(地理的緯度 φ、経度 λ)が(30°、 0°)、(30°、30°)、(60°、60°)を計算してみます。
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国土地理院の「測量計算サイト」の「緯度・経度と地心直交座標の相互換算」の結果は、それぞれ、
(5528256.639 , 0 , 3170373.735)
(4787610.688 , 2764128.320 , 3170373.735)
(1598552.293 , 2768773.791 , 5500477.134)
となります。
測量計算において錘を下げて鉛直方向を決めることは基本的なことで鉛直方向を法線として良いようです。
測量は地表の位置を決めるための方法だったと推測します。つまり、地面に標を打って、その位置関係を測ります。
しかし、その必要性は16世紀ごろまでは余り無かったようです。ヒッパルコスの時代には、角度を360°で測り、経緯度が使用されていたと見られています。しかし、ローマ帝国の時代以降のヨーロッパでは、天文学と同様、三角測量も失われた技術になったようです。方位磁石がヨーロッパに知られるのは12世紀以降のようで、印刷出版が盛んになる15世紀にはアラビア語文献などから天文学が復興し、大航海時代を迎えることになります。「ピカールの三角測量」は、1669年から1670年にかけて行われた、地球の大きさを実測する試みのようです。緯度1°を112.21kmと割り出しました。地球の半径は 6429159 mとなります。
国土地理院のVLBI(超長基線電波干渉法)の解説には「数千キロメートルも離れたアンテナの位置関係をわずか数ミリメートルの誤差で測ることができ」るとあります。しかし、この「位置関係」は、2つのアンテナの間の直線的な長さが精密に得られるのであって、地表の位置や距離を示すものではないと思います。地球は動いているので、遠くにある不動点に対して、アンテナは常に移動しています。
アンテナを不動と考えて地表の位置と結び付けるために地球の準拠楕円体が使われるものと思います。この結び付けで明瞭なのは、地球の自転軸だけだと推測します。観測時には天の北極も決めることができると考えます。
緯度と経度差は準拠楕円体の形状から計算されるものです。準拠楕円体の形状から計算した2つのアンテナの間の直線的な長さは、VLBIによる実測に近い値になる訳ですが、これは準拠楕円体のモデルの決め方によるもので予定の差を持っているものと思います。
地球の外の点を基準にした測位システムは、その瞬間の準拠楕円体上の緯度、経度を精密に算出します。しかし、地上の特定の標は、観測点を示すものではあっても、明日も同じ緯度、経度を示す保証はないのだと推測します。
緯度は、錘を下げて知る鉛直線を元にしています。しかし、重力は複雑で変化するもののようです。現在常用されている緯度は、準拠楕円体の表面からの高さを使って計算された値で、重力の観測結果とは関係がなく、むしろ重力の観測地点を示すのに使用される値だろうと推測します。
本初子午線はIERS基準子午線のようです。これはIRMと記されるようですが、Wikipediaにはユーラシアプレートと共に2.5cm/年で動くと記されています。
緯度は自転軸に基づいて数学的に求められますが、経度は自明な原点がないので経度差しか計算できません。おそらく各国が経度原点の標を法で定めています。
GPSやVLBIと言った「測位システム」は、準拠楕円体の表面の位置を精密に測位しますが、地表の標の位置を不変的に示すものではないと思います。日本の公共測量や登記の公信力は測位システムによって科学的根拠が与えられるものではなく、コンセンサスが重要なのだと思います。
以下に類似の図を見て、引力とは何かと疑問に思いました。
錘を下げて定める鉛直線は、重力の方向を示し、万有引力の方向は別にあることになります。引力が示すのは質点です。
国土地理院の「重力値推定計算サービス」は、緯度 36°、経度 140°、標高0mの「推定重力値」を 979926.8 mGal と算出しました。 緯度 36° の緯線が作る円の半径は 5165998.778 mで、地球の自転は rad/s なので、1kgの質量に作用する遠心力は 、0.0273203683721 N です。 図から、 なので、 から、 引力 N 、引力の傾き ° |
地理的緯度 36° に相当する地心緯度は 35.8171843° と計算されます。常用される重力加速度は、 なので、引力は地心を指していないようです。質点が何処なのかは分かりません。
準拠楕円を考える場合は、重力の向きと大きさには遠心力が含まれ、緯度による重力変化と考えるのだと思います。この重力変化は、遠心力と質点からの距離の変化から計算される一定の値だと思います。
遠心力は回転面上の力で、自転軸に直角な向きの力のようです。
自転による物体の速度は、赤道で1669.792km/h と計算されます。極で体重50kgなら、赤道では49.75kgになるような遠心力が働くようです。
人が地表に立っているのは、重力と同じ抗力を地面から受けることで説明されます。この力の向きは鉛直線です。
低速な人は、どの向きにも進め、どんな経路を取ることもできます。舵の効く船や航空機も同様で、緯線に沿って進むことができます。
一方、地球の周りを回る人工衛星は、地球の質点を含む平面上を回っています。地表の緯線の作る平面上を回るような人工衛星は不可能です。図の場合、エンジンによって方向を維持し続けなければ、遠心力によって人工衛星は、重力がゼロになる赤道面に落ちていくのだと思います。
Wikipedia には「地球楕円体」とは、「測地学において地球のジオイドの形に近似した回転楕円体を指す」とあります。また、「測地測量の基準として用いる地球楕円体」が「準拠楕円体」です。
国土地理院の解説には「地球楕円体を測量の基準にするためには、楕円体の中心を実際の地球上のどの位置に、またその楕円体の軸が実際の地球のどこを通るかということを決める必要があります。このように、位置と方向が決められた地球楕円体を準拠楕円体と呼びます。」とあります。
「準拠楕円体」の目的は「測量の基準にする」ことです。しかし、決められるのは「楕円体の中心」、「楕円体の軸」と実際の地球の関係です。「楕円体の中心」、「楕円体の軸」は、ジオイドの形に近似するときに定まっていたものと考えられ、これは経度に関する明瞭な原点を示しません。
国土地理院の解説文では、GRS80などの定める楕円体は「地球楕円体」です。GRS80準拠楕円体とも記されるので、区別は明確ではありません。おそらくGRS80楕円体における日本の経度の原点を定めて日本の準拠楕円体としていると言うことだと思います。
準拠楕円体の接平面や法線は、楕円体高を定め、重力の方向や大きさを計算するためのもので、実際に観測される重力の方向や大きさを評価する基準となるのだと思います。
準拠楕円体は、地球のジオイドの形に近似した回転楕円体ですから、算出される値は物体に作用する力を総合したものです。実際の重力の方向や大きさは、均一ではない複雑な要素で決まっているのだと思います。